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小坂竜氏に聞く、ライティングデザインの未来

2016.11.07 | INTERVIEW

五つ星ホテルのダイニングからファッションストアまで、幅広く商空間のデザインを手掛けるA.N.D.の小坂竜氏。 レストランやバーの設計に造詣が深く、心地よい空気感を生みだす氏に、 照明デザインとインテリアの密接な関係を聞くと共に、スポットライトとダウンライトという 機能照明の分野で新たな可能性に挑戦するミネベアの照明シリーズ「SALIOT(サリオ)」について、 実物を手に取ってもらい率直な意見を聞いた。

ファイバーによる“光の幕”

まばゆいばかりのレースのような輝き。ホテル「W 広州」のバーラウンジ「FEI(フェイ)」の巨大なガラスウォールを彩るのは、日本で制作したグラスファイバーが発する繊細な光だ。


ホテルのロケーションを現地で確認した小坂氏は、吹き抜けの巨大なボリュームに対して、また、三方向のガラス面から見える周辺環境とどのように縁を切り、非日常の世界をつくりだすかを考えたという。


そこで、ラウンジ内で過ごす際に、外部や建築躯体の存在を感じさせないよう「光の幕」で空間を包み込むというアイデアに至る。光源としては、LEDなどを含めさまざまな可能性を検討するが、映像モニターのようなものではなく、人に寄り添う霧やオーロラのような自然現象に近いアーティスティックな表現を意図し、グラスファイバーを選択。その一本いっぽんに微細な傷を手作業で加工したグラスファイバーは上から下まで均一に光を発し、更にその周囲に透明なテグスを縦方向に配することでその光を増幅し、奥行きのある“光の幕”が実現した。フェイの照明計画については、ICE都市環境照明研究所の武石正宣氏の協力を得ている。


光はフルカラーに変化することで、利用シーンに応じたエンターテインメント性の高い演出にも生かされている。部分的なモックアップなどで実験は重ねていたものの、現地で全長18mのグラスファイバーに点灯した瞬間の圧倒的な“きらめき”は、今もはっきりと記憶していると小坂氏は振り返る。


また、無数のテグスとウィンドー面で増幅されたことで、光量についても想像以上の効果があったという。


光に包まれたインテリアは三つのフロアで構成され、はかなさのある光とは対極にあるような力強いマッスな石のカウンターや透明アクリルのテーブルなど、造形的なオブジェを要所に配することで印象的なシーンをつくり出した。訪れる人にとっても外部から眺める人にとっても、“見せる光”を効果的に用い、バーラウンジの存在を印象づけた事例と言える。


ホテル「W広州」に計画されたラウンジ「FEI」の3階フロア。3層吹き抜けた開口部には長さ18mのグラスファイバーを吊り、ゲストを包み込むような演出がなされた (設計:A.N.D./建築主:KWGプロパティーホールディングス/撮影:ナカサ&パートナーズ)
ホテル「W広州」に計画されたラウンジ「FEI」の3階フロア。3層吹き抜けた開口部には長さ18mのグラスファイバーを吊り、ゲストを包み込むような演出がなされた (設計:A.N.D./建築主:KWGプロパティーホールディングス/撮影:ナカサ&パートナーズ)

漆黒の闇に浮かぶエレメント

上述の「FEI」とは対照的に、小規模ながら緻密な照明計画がなされた店舗がマンダリン オリエンタル 東京内の「鮨 そら」である。同ホテル内のダイニングレストランやバーのデザインを開業時に手掛けていた小坂氏は、ホテル開業5年目に、鮨店の設計を依頼された。東京・日本橋という食においても歴史のある街への出店ということも考慮し、和の要素で空間を埋め尽くすような伝統的な鮨店とは一線を画す、モダンかつ洗練された空気を目指した。


「まず、東京スカイツリーが見える38階の眺望を生かし、カウンターの配置に少し角度をつけて各席から開口部が見えるようにレイアウトしています。窓からの景色は大切な要素ですが、やはり鮨店で過ごす時間の中で主役となるのは鮨職人であり、目の前に提供される料理です。高級店としての格を見せるヒノキのカウンターを用い、他の部分はできるだけ、職人の世界を邪魔しないようにブラックアウトさせました。ただ黒く塗るのではなく、たとえばパーティションには作家がこの店のために設えた自立する鉄のスクリーンを立て、カウンターバックにはタイルの端を積層したオリジナル素材を市松状に用いています。店内で過ごすうちに、ただ黒く見えていたインテリアの表情が徐々に見えてくることを狙いました」


また、余計なノイズとなる光の反射が出ないように、シンクは黒い御影石で制作し、水栓にも黒い器具を選択。細部までこだわり抜いた漆黒の空間には、この店のために制作された琉球ガラスのつくばいが設置され、そのガラスと水に反射した光がゆらめく。設計者のこだわりと造形作家達による手仕事の技、そして、一歩引いた照明計画により、職人とのコミュニケーションを楽しみ、寿司と向き合える空間となっている。


東京・日本橋のホテル「マンダリン オリエンタル 東京」38階の「鮨 そら」を入り口から見通す。カウンター以外の要素に黒を多用することで、鮨職人と料理に視線が向かうようデザインされた
東京・日本橋のホテル「マンダリン オリエンタル 東京」38階の「鮨 そら」を入り口から見通す。カウンター以外の要素に黒を多用することで、鮨職人と料理に視線が向かうようデザインされた(設計:A.N.D./建築主:マンダリン オリエンタル 東京/撮影:ナカサ&パートナーズ)

多機能の魅力

レストランやバー、ウェディング施設からレジデンスまで幅広い空間を手掛け、ライティングデザインにも細心の注意を図る小坂氏に、ミネベアが先ごろ発表したLED照明「SALIOT(サリオ)」の印象を聞いた。


「1台のスポットライトで、色温度を2700Kの電球色から5000Kの昼白色まで自在に変えることができ、更に照射方向をリモートコントロールできる器具は見たことがなかったので、その機能性に驚きました。バンケットやカンファレンスなど、多用途の空間では、これまで演出用の照明と機能照明を組み合わせてきましたが、どうしても天井に取り付ける器具の数が増えてしまいます。私達デザイナーとしては、その光は欲しいができるだけ天井をすっきり見せたい。そうした時に1台で多機能というのはアドバンテージとなります」


また、小坂氏からは「今、流通しているLEDの照明器具では調光を一番絞った時に、白熱電球のように緩やかにフェードアウトすることができません。最後の1%とゼロの間で階調がなめらかに調整できるとより使えるシーンが増えるように思います」という、バーなど繊細な光にこだわるデザイナーならではの意見があった。スマートフォンなどで遠隔操作できることにも言及し、「吹き抜けなど高天井の場所では、設置後の角度調整にはかなりの手間もコストも掛かります。時によっては天井裏にキャットウォークを設けるなど、表から見えない部分で対応していたことが、スマートライティングで解消されることに期待したい」と語る。


国内のみならず、欧米やアジア各国でもプロジェクトが進行中という小坂氏は、海外のダクトレールへの設置方法などを確認すると共に、「SALIOT」が海外の安全基準を満たす点にも関心を寄せていた。


「SALIOT」の厚さ1㎜のレンズは、複数のレンズ構造を組み合わせ、微細なプリズムパターンを刻むことで高効率な短焦点レンズを実現
「SALIOT」の厚さ1㎜のレンズは、複数のレンズ構造を組み合わせ、微細なプリズムパターンを刻むことで高効率な短焦点レンズを実現


配光をナロー(10°)からワイド(30°)まで調整できる47WのLEDスポットライト。照射方向もスマートフォンなどから遠隔操作できる
配光をナロー(10°)からワイド(30°)まで調整できる47WのLEDスポットライト。照射方向もスマートフォンなどから遠隔操作できる


ナロー(10°)とワイド(30°)の照射イメージ
ナロー(10°)とワイド(30°)の照射イメージ

小坂竜
1960年東京都生まれ。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後、乃村工藝社入社。商環境事業本部、A.N.D.クリエイティブディレクター。「ザ・プリンスさくらタワー東京」「羽田空港JAL 国際線 ファーストクラスラウンジ」「ザ テンダーハウス」など、幅広い空間デザインを手掛けている。

ミネベア株式会社 照明製品統括部

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