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【PR】連載 AB conceptのデザイン/AB concept
2022.10.11 | REPORT
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AB conceptは、インテリアデザイナーのエド・ウンと建築家のテレンス・ウガンによって1999年に設立された香港のデザイン事務所。長野県軽井沢の風景に惚れ込んだ彼らはこの地を基盤にグローバルな仕事を展開。世界の環境デザインに次々に新しいシーンを創造している。
ポルトガルのリゾートホテル「W Algarve」
ここに紹介する彼らの作品はWホテルがポルトガル本土最南端にオープンした「Wアルガルヴェ」。そのハイエンドなセンスと配慮の行き届いたディテールは人を魅了。ヨーロッパ有数のビーチリゾートにしっかりと溶け込み落ち着きを感じさせる。あたかも全てが最先端の新築計画に見えるほど建物の内外がスムーズに連続しているが、実は既存の躯体だけの状態からスタートしたリファービッシュ(再生)のミッションだったと聞けば彼らの力量に感嘆するほかない。エド・ウンの解説を聞きながら内部を見ていこう。
「ホテル棟はそれより短目の居住棟と向かい合う配置で、その間のエリアを“ウェットデック”と呼んでいますが、このWホテル・リゾートのコアにしました。そこには水が流れ、プールがあり、場所によってはDJイベントでダンスを楽しめるスペースがあり、いかにもポルトガルらしい屋外活動を楽しむための設えにしています」。
世界中どこでもWホテルはそれとわかる「W」をアイコンとしてデザインに取り入れているが、ここでもエントランスにWの文字が立体造形されて人々を歓迎する。「単なる表層的なデザインではなく、リゾートらしさ、この土地らしさを出すために、エントランス周りは地中海に向かって開ける海岸の洞窟のイメージを表現しました」。
入ってすぐのレセプションから連なるラウンジ、バー・エリアまでは、リビングルームに見立てている。ポルトガルといえば、家庭でのクロシェ(かぎ針編み)の手工芸が知られるが、エントランスまわりのネット状やストリング状のものはそれを表すエレメントであり、アットホームな居心地の良さを演出し、「さらに壁面を埋め尽くすポルトガル陶器の装飾が伝統文化の雰囲気を盛り上げます」。多様なカルチャーの交差するこの土地の美術や衣裳などのからのインスピレーションからさまざまなものが円形パターンでパッチワークされてエクレクティック(多様性折衷)なデザインになっている。
また、Wホテルらしい昼夜の二面の異なる空間の魅力を示すために英国の照明デザイナーとも協力し、「昼の明るいシンプルさとは対照的に、夜にはさまざまな空間要素が生み出す光と影が微妙なニュアンスを生み出してくれます」。壁の不定形なガラス開口から見通すのも楽しい。ここでも内部と外部が融通無碍に融合するイメージである。
バーは数段ステップアップしたフロアでムーア調を意識したデザインをディテールに取り入れている。「Wホテルの特徴の一つはファッション、それに音楽を加えてもいいでしょうが、そういう点も意識してデザインし、宝石の煌めきのようなエレメントと相まってパーティが映える空間になっています」。
このホテルは建築法規が改正される前に建てられたために、「海岸への距離が大変近いロケーションであるのがメリットで、その点も生かすように、レストランやバーは外部と内部を行き来する開放性があり、海景もうまく取り込んでいます」。
レストランはオールデイダイニングであるが、食材をはじめとしてローカルのポルトガルらしさを重視している。もう一つのレストランとしてミラノの有名な「ペイパームーン」がポルトガル初出店で入っている。こちらもイタリアンではあるがローカルカルチャーをリスペクトしたデザインだ。建物の眺望の良さからアウトドアダイニングを重視したテラス席は街の全体を見通すことができる。
レストランの下層にはスパがある。Wホテルではスパをソーシャルな空間と位置付けているので、人々はトリーメントを受けたり、飲み物を飲んだりしつつ社交をする場であり、単に静かなリラクゼーションを求めるスパとは異なるものとしてデザインされている。
客室を見てみよう。ここでの客室はポルトガルの街のランドスケープを連想させるディテールに満ちている。カラフルな家々の連なりを思わせるように、まず各室のドアの色は統一せず、それぞれに異なる色とし、内部もまた独自のカラフルさだ。「ローカルカラーをどう出すかが今作での腕の見せ所で、私たちがこれまでフォーズンズホテルの仕事でやってきたこととは違うチャレンジングなデザインを試みました」。ここに彼らのデザインのフィロソフィーがほのみえる。「自分の心の中のいる子供、インナー・チャイルドの声に耳を傾けました。現地調査のリサーチでもカメラで撮るとか合理的な行為だけでなく、古い建物の雰囲気を体感するとか、子供時代の記憶を呼び覚ますとかすることで、ソフィスティケイトなものだけを狭い視野で目指すことなく、子供のような純真さでインスピレーションを受け取り、具現化し、それをまた顧客にも楽しんでもらえるようにすることを考えます」。たとえば、ベッドのヘッドレストには街の風景の稜線を思わせるデザインがなされ、家具には煙突(家庭のシンボル)を思わせる形状のものも用いてそこにミニバーを内蔵させたり、イワシをかたどったクッションを置くなど、室内もまた外の街にエコーしていることに気付かされる。大人も童心に帰ってこのリゾートを心から堪能することができるというわけだ。「もちろんWホテルのラグジュアリーさはタイルやファブリックを含めてインテリアのマテリアルやその仕上げに伺い知ることができます。スイートルームでも普通のホテルのクラス分けとは違う”WOW スイートルーム“が用意されており、プライベート・ジャクジーなどを備え、ハネムーナーの需要にも応じています」。
すべてがこれ以上ないほど完璧に連続したデザインであるが、それが建築と並行したプロセスでなされたのではないというのは驚異だ。「最初にサイトを訪れたときはコンクリートのスケルトン状態で放置された躯体があるだけでした」。インテリアデザイナーは敷地、空間、コンテクストを十分に理解し、咀嚼して、その価値を高めるようにするのが仕事であるが、この「Wアルガルヴェ」でのAB Conceptの仕事を見れば、施設内の空間、人々の動線とアクティビティ、空間の連なりとフォーカルポイントやパブリックスペースの配置と配分が、あたかも最初から決定していたかのように完成されている。設計者の笑顔の解説の背後には並々ならぬ献身と尽力、そして精緻な計算が感じられた。
W Algarve
ESTRADA DA GALE, SESMARIAS, CX POSTAL 290, H, ALBUFEIRA, PORTUGAL, 8200-385
企画/Nozul
設計/建築 Divercity 内装 AB Concept
照明/MBLD
撮影/Brandon Barre
「W Algarve」data
建築面積:56,662.50㎡
開業日:2022年6月1日
施工協力:空調・電気設備/Mota Engil Engenharia e Construção S.A. 給排水衛生設備/Mota Engil Engenharia e Construção S.A. ; Basins / mixer by Villeroy, Boch, Sanitary wares / accessories by Roca, Sanitary ware in Away Spa by Watermark, Kawajun, Basins in Away Spa 厨房機器/レジデンス部 SMEG 照明器具/ラウンジシャンデリア Lasvit 音響設備/Never Enough Multimedia & Events 家具/Kattal, AHSAP 什器/Osvaldo Matos サイン/Baltic Signs LLC, Bindopor 装飾/エントランスセラミックプレート Vista Alegre
主な仕上げ材料
外装:下地/コンポジットデッキ、ウッドデッキ、ポーラスコンクリート、ガーデン、天然石 仕上げ/白漆喰、ガラス繊維強化セメント、タイル
外部柱:白漆喰
内装床:石材、木材、タイル
天井:漆喰