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仕事を高める場のデザインとマテリアル

2021.01.12 | INFORMATION

テレワークやリモートワークといった、新しい働き方が多くの場で求められている。新型コロナウイルスの感染拡大により加速された面もあるが、それ以前から業務のさまざまなやり取りがオンラインとなり、ワークスペースのありようも変わりつつある。
一方で、端末デバイスだけで仕事が捗るわけでもなく、人が直接会うことの価値も改めて見直されている。場や環境をデザインする重要性が問われているのだ。

ニュースタンダードなオフィス

リアルゲイトが運営する、スタートアップ企業やクリエイター向けのシェアオフィス「PORTAL POINT(ポータルポイント)」では、そうした新しい時代の働き方に応じたコワーキングスペースやスモールオフィスなどを提供する。


2020年9月にオープンした「PORTAL POINT HARAJUKU」は、シリーズ最大規模でフラッグシップとして位置付けられる。築35年、約1000坪のオフィスビルを一棟丸ごとリノベーションした。なかでも8階は「ニュースタンダードオフィス」として、新たな価値を提案するオフィス空間を実現した。


エントランスの天井。繊細なメッシュがダクト設備を視覚的に遮る
エントランスの天井。繊細なメッシュがダクト設備を視覚的に遮る


エントランスの天井。繊細なメッシュがダクト設備を視覚的に遮る
エントランスの天井。繊細なメッシュがダクト設備を視覚的に遮る


「原宿の計画自体はコロナ禍前より進んでいたため、大幅なレイアウトの見直しをしました。人との距離をなるべく保てるようにし、換気を考慮した風通しの良い設計にしています」と同社の設計デザイン部部長・菅原大輔氏は話す。


対面式の島型プランだったものを、フロアの収容人数を約40%減らし、曲線や高低差を生かしたデザインを取り入れた。


特に契約者ごとに使うブースでは、パーティションのデザインが肝要だった。セキュリティーやプライバシー上、視線を遮る必要はあるが、「通気性は保ちたいし、圧迫感を和らげるためにも見た目の軽さが欲しかった」(リアルゲイト設計デザイン部・下野祥吾氏)。


当初はカーテンという選択肢も上がったが、ユーザーに閉めっぱなしにされるとデザインの狙いである全体としての開放感も損なわれる。そうした設計上のさまざまな要件をクリアしたのが、菊川工業のエキスパンドメタルだった。

金属がもたらした軽快感

「菊川工業さんのことは存じ上げてなくて、素材からたどり着いたんです」(リアルゲイト設計デザイン部副部長・山田佳奈氏)。建築向けの金属加工で豊富な実績を持つ菊川工業では、インテリアやファサードの意匠で、デザイナーの創造性を喚起する提案型のプロジェクトも積極的に手掛けている。


象徴的な円形のブースでは、1.2㎜厚のスチールを加工、アクリル樹脂焼付塗装を施した。細いフレームと繊細なパターン、さらにたわめられ、白く塗られていることも相まって、ファブリックのような柔らかさすら感じられる。メッシュの工作精度や支持部の納まり、自立できるフレームの強度など、逆説的だが金属だからこそ成し得た軽快感がある。


左から、奥野木氏(菊川工業)、菅原氏、山田氏、下野氏(リアルゲイト) 
左から、奥野木氏(菊川工業)、菅原氏、山田氏、下野氏(リアルゲイト) 


「強度とのせめぎ合いで、ギリギリまで細いものにしています」と菊川工業KCT 建材部の奧野木宏一氏は説明する。フリーデスクエリアと面する2名用ブースではスチールを用い、遮蔽度の高い見え掛かりとなるよう切り目のパターンを変えた。「(切り込みを入れる)歯のパターンと切り込み幅を変えたサンプルをいくつも見せていただき、規格品だととても実現できない細かい要望も対応してもらいました」(下野氏)。


「ギャラリーやショールームのようなイメージを持たせたかった」(菅原氏)という1階エントランスホールの天井でもアルミのエキスパンドメタルが採用、1600×900㎜でパネル化した。 ボードで塞ぐことなく、空間としての奥行きや広がりを感じられる。設備ダクトの存在感を曖昧にしつつ、照明の光は通す。メッシュの透過とアルマイト仕上げの反射が織りなす表情は、オフィス然とした無愛想さとは異なるものだ。「仕様決定まで、何度もやりとりをさせてもらいました。 私たちがオリジナルでやりたいことを、一緒に考えていただけるという部分は非常に大きかったです」と山田氏。


菅原氏は、「私たちの業務はリノベーションが中心ですので、木やスチール、皮といった、時間の経過を感じられるような、ある程度の経年変化を楽しめる素材をよく選んでいます。そういった意味でも、金属について知り尽くしている菊川工業さんとは相性が良かったのかもしれません」とプロジェクトを振り返る。

コミュニケーションが生み出す創造性

コロナ禍を受け、家でも会社でもない、いわゆるサードプレイスとしてシェアオフィスやコワーキングスペースを利用する需要も増えている。「PORTAL POINT」でも法人会員プランや立地を横断できる相互利用プランを設定している。


2人用ブースを仕切るパーテーションには、目の粗いエキスパンドメタルを採用し、角度により視覚的な遮蔽の度合いが変化する
2人用ブースを仕切るパーテーションには、目の粗いエキスパンドメタルを採用し、角度により視覚的な遮蔽の度合いが変化する


菅原氏は「レンタルの限られたスペースでも、自分のオフィスとして自慢できるような、誇りを持てるようなものにしたい」と言う。高い生産性やクリエイティビティーが要求される現代で、心地良く仕事ができる空間デザインはもはや必須だ。


人間はその秀でた社会性と環境適応能力の裏返しのように、コミュニケーションや環境に作用されて脳が行動を決める。リアルゲイトと菊川工業のコラボレーションは、図らずも、綿密な人のコミュニケーションが、優れたクリエイションを生み出すという証になったのではないか。

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