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木の良さを生かす新しい構造材
CLTで商空間をつくる2019.11.18 | INFORMATION
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国産木材をふんだんに使って、稀少なスポーツカーのショールームを設計したという事例を訪ねた。木造建築の新たな可能性を感じさせるものだ。
新しいジャンルの構造材
「在来木造とも鉄骨とも違う、新たなジャンルの構造だと感じました」
岡山市内で設計事務所を主宰する片山茂樹氏(片山建築研究所代表)は、CLT(Cross Laminated Timber)を使ったパネル工法について、そう語る。
「始めは2×4工法のようなイメージを持っていたのですが、CLTという素材が持つ性質はとても多彩で、自分の中ではまったく違うものだという認識です」
CLTとは、挽き板の繊維方向が直交するように積層、接着したパネル。高い強度を持つため、構造材として使える。基本的にはパネルを金物で接合し、耐力壁を構成する。欧州では先行して普及している材料だ。一般的な設計法等に関する建築基準法に基づく関連告示が2016年4月に施行され、大臣認定がなくても通常の設計で採用できるようになった。
一般流通している壁パネルでも90㎜の厚みがあり、高い断熱性を備える。PCa(プレキャストコンクリート)版に比べると軽量で、荷重設計、搬送・取扱の点でも有利だ。燃えしろを考慮することで、準耐火構造の建物でも防火被覆を必要とせず、構造体を現しとできる。
構造材だけで、断熱材も仕上げ材もいらなくなります。厚みのある木なので、調湿や吸音の効果もある」と片山氏はその多彩な機能に可能性を見る。寸法精度や強度の高さを持ちながら、木材ならではのメリットをそのまま生かせるのだ。
プレミアムカーのための空間
今年の春に竣工した「オールドボーイ 野々口ショールーム」は、片山氏にとって3棟目のCLT建築だ。’60~80年代の稀少なプレミアムスポーツカーをレストアし、販売するためのショールームで、車が出し入れしやすいよう、大きな開口部と無柱空間が必要だった。
「基本的には(CLTは)壁の多い建物に向いているのですが、集成材の柱梁を併用して、出入り口もスパンの問題もクリアしました。屋根には7mのCLTを使っています」。片山氏は普段、住宅から店舗、事務所や工場等さまざまな建物を手掛けているが、「耐力壁の位置を守れば、設計自体は特に難しいものではありません。鉄骨造やRC造の代替に十分なり得ます」とCLTパネル工法の自由度に満足している。
一方、施主に対してもアピールしやすい。仕上げなどの簡略化や施工性の良さは、工期とコストの削減につながる。加えて、JAS(日本農林規格)構造材で、非住宅の建物であるため、林野庁の助成金(JAS構造材個別実証支援事業)があったことも後ろ支えにもなった。これはCLTだけでなく、他のJAS構造材にも適用があり、今年7月には対象となる建築の用途範囲も寄宿舎やサ高住に広がった。
「杉のCLTを使ったのですが、木目や節のある表情の良さもお客さんに理解していただけた。意外だったのは、積層面の見える小口に対しても、非常に好意的だったことです。お洒落だとも言ってもらえました」と片山氏は話す。
加工が容易な点もCLTのメリットだ。ファサード側で軒を支える妻壁も、デザイン性を加味してカットしてある。部材としての汎用性も高く、扉にはルーター加工で意匠を加えたCLTを使っている。最大9台の車を並べられるショールームは、中央の商談室を除いて空調はないが、「古い本革シートは湿度に影響を受けるので、実は気を遣うのですが、CLTの断熱性や調湿の効果が貢献しています」(片山氏)。
新車のように磨き上げられた車のボディと、温かみや優しさのある木目の風合いは相性が良く、人の手によって熟成されたプレミアムカーのための、“ワインカーヴ”という趣だ。
将来を担う材料・工法となる
森林が国土の約7割に達する日本において、木材の活用は重要なテーマだ。適切な間伐や伐採によって森が機能しないと、防災、CO2削減効果、生態系維持、水資源保全、地域景観など、実に様々な影響を及ぼす。建築や空間の木造化・木質化は、国産木材の需要を喚起・促進するため、国も積極的に推し進めている。
さらに、施工が簡略化できるCLTパネル工法は、建築業界における人手不足のアシストとなる可能性もある。近年の建設現場における職人や大工の不足は、東京五輪や災害復興による需要逼迫はもちろん、少子高齢化や労働意識の変化などで、技術を持つ人材が枯渇しつつあるという深刻な状況でもある。「近い将来、多くの建物でCLTに切り替えていかざるを得ない状況になるかもしれない」と片山氏は実感を込めて予測する。CLTは中高層建築での活用も実例があり、今後は、構造や防耐火、耐久性あるいはデザインや仕上げなどにもノウハウが蓄積されることで、より多様な建築や空間への展開も期待できる。
高度に建材化が進んだ現在の建築では、さまざまな仕上げや素材が覆い、竣工すると構造材はほぼその姿を見せることはない。「CLTだと、つくっている大工さんも楽しいと言うんです。木の壁で建物を建てているという実感がより強いのかもしれません」と片山氏。使う人やつくる人の気持ちも動かす木の表情。それを持つ構造材がCLTだ。
一般社団法人全国木材組合連合会
事業名:非住宅におけるJAS構造材利用拡大事業(林野庁補助事業)
事業申請の締切り:12月20日
詳しくは、下記HPを参照
https://www.jas-kouzouzai.jp