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オフィスキッチンを成功に導く、 四つのタイポロジー 第3回 コモン型
2019.10.30 | REPORT
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鼎談「オフィスにおけるキッチンの可能性を考える」をきっかけに、LIXIL、若原強さん、オープン・エーの3者が共同研究を行い、オフィスキッチンを四つのタイポロジーに分類して分析した。今回は、「コモン型」オフィスキッチンについて、三つの実例を紹介する。
コモン型は執務スペースとは別の共有スペースに隣接してオフィスキッチンを配置したタイプ。特徴としては、外部のゲストを招きやすいので、内部と外部のコミュニケーションを促進する効果がある。企業のブランディングやPRにも大きく役立つ。
■CASE4 Designit Tokyo
デンマークで1991年に創業した戦略デザインファームDesignit。日本支社の設立は2013年、現在の東京オフィスを設けたのは2015年で、世界各国からさまざまな職能を持つスタッフが集まっている。そのコミュニケーションやチームビルディング一環として機能しているのが、アイランド式キッチンを備えたフロアだ。
キッチンは執務スペースとは別のフロアにある。このフロアはゲストへのプレゼンテーションやワークショップ会場、フリーアドレスのデスク、休憩スペースなどに利用されている。デザインはバルセロナから出向していたデザイナーのスタッフが行い、ヨガや昼寝もできる茶室風の畳スペースもある。キッチンはオフィスマネージャーによって管理され、ドリンク、ケーキ、果物、スナックなどを用意。月曜日には朝食ミーティング、金曜日にはシェフが調理を行い本格的なランチを提供する。他にもスタッフが料理をつくり、食事会や誕生会を開催することもある。「同じ釜の飯を食う」ことが、異国で暮らす多国籍なスタッフ同士の連帯感を高め、日本での暮らしやプライベートでの交流を支える役割を担う。キッチンでの対面コミュニケーションは、メールやチャットでは伝わらない情報交換に欠かせないものでもある。
キッチンのカウンターはフリーアドレスのデスクの一つとしても使われ、打ち合わせに来たゲストに対し、従来のオフィスとは異なる空間、時間の流れを感じさせる。プレゼンが長引く時は、キッチンでの休憩をはさむことでゲストもリフレッシュできる。Designitの各国の支社にはこうしたキッチンスペースが設けられていて、デンマーク・コペンハーゲンの本社では、専任のシェフが毎日の食事をつくっている。
■CASE5 MIDORI.so NAGATACHO
メンバーシップ制ワークスペース「MIDORI.so NAGATACHO」には、フリーランスのクリエイター、デザインオフィス、企業の新規事業部などさまざまな人が集い、漫画家の集ったトキワ荘のような、つながりやアイデアが生まれている。ゆったりしたソファを置いたラウンジや打ち合わせスペース、仮眠のとれるベッドなどを置き、アットホームでリビングのような雰囲気を持つ。メンバーは永田町の他、中目黒と表参道にある2拠点のラウンジやキッチンも利用できる。
施設のキーマンとなっているのが、数名のコミュニティーマネージャーで、管理よりもメンバーの自主性を尊重しているのが特徴。昼間はメンバーの招いたゲストも自由に出入りできる。マネージャーはメンバーの仕事内容を把握し紹介を行うなど、メンバー同士のつなぎ役になっている。
コミュニティーの形成に重きが置かれていることが特徴で、その中心的な存在として企画されたのがキッチンだ。キッチンが置かれたスペースはフロアの奥にあり、ガラスの引き戸で仕切れるものの、普段は引き戸を開けて開放されている。モザイクタイル張りの大きなアイランドキッチンと小ぶりのバーキッチンを備え、中央にはメンバー同士の交流を促す円卓を置いている。アイランドキッチンは幅3000㎜×奥行き670㎜。メンバーが料理をつくることに重きが置かれている。キッチンは基本的にメンバーの自己管理で、食材を入れる冷蔵庫もあり、皿洗いや清掃、食材管理などは使った人が行う。
毎週2回、キッチンでは料理研究家によるケータリングが行われ、昼時になるとメンバーやゲストが集まってくる。料理研究家にとっても、新作料理の感想を聞ける貴重な場であり、キッチンを中心とした出会いとコミュニケーションが生まれている。
■CASE6 Nagatacho GRiD
IT企業にとって、多様な人材とそこから生まれるイノベーションは、企業の核となる資産といえるだろう。ガイアックスが運営する地下1階地上6階のビル「Nagatacho GRiD」。ガイアックスの本社ビルであり、人のつながりを生む「コミュニティビル」として運営されている。5階には「MIDORI.so NAGATACHO」(CASE5)が入居。2階に設けられた「ガイアックスコミュニティ」は、社員と社外の人達が入り混じり、敷居なく活動するサロンのようなオープンスペースだ。その求心力の中心にあるのが、入り口近くに設置された幅4100㎜のL字型オープンキッチンである。
ドライキッチンでありながらコーヒーサーバーを備え、ランチにはケータリングサービスを用意。食事のままならない若手社員にとって、健康的な食事をとれる貴重な場となっている。同社がテーマとする「シェアリングエコノミー」は、一つのモノやコトを複数の人たちが共有することで、より豊かな社会を実現すること。オフィスについても、その垣根をとり払い、社内外の人々が居場所をシェアする「フリープラットフォーム」を実現することで、さまざまな職種の人々が刺激し合い、今までにないアイデアや仕事のつながりが生まれている。カメラマンやデザイナーなど、外部に仕事を依頼する場合は、まずガイアックスコミュニティに集う人から探すそうだ。
他に地下1階にはイベントスペース、6階には広いレンタルスペースがあり、それぞれにキッチンを備えている。またビルの1階には開かれた食堂「tiny peace kitchen」(本連載第4回で紹介予定)が入る。ビル全体に点在するキッチンが、シェアリングエコノミーに注力する企業の姿勢を示しているのだ。
次回は、「コネクト型」と「ノード型」のオフィスキッチン実例を紹介する。
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