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アムスタイルのオートクチュールキッチン
2019.05.17 | REPORT
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シンプルながらも、ディテールや素材感にこだわった、オリジナリティーのあるオーダーキッチンを手掛ける、アムスタイル。「キッチンをオートクチュールする」ことをコンセプトとしたものづくりは、ハイエンドな住まいを求めるユーザーを中心に支持され続けている。同社の代表である清水克一郎氏に、アムスタイルのキッチンづくりの哲学を聞いた。
—アムスタイルがキッチン事業に取り組んだのはいつですか。
アムスタイルは1993年に創業し、2000年頃から本格的にキッチン事業をスタートしました。最初は白と黒のカラーだけで、ピアノ塗装にステンレスの天板が組み合わさった、シンプルでシャープな印象の製品がメインでした。最近は、インテリアの中でさまざまな素材をミックスする手法は当たり前になっていますが、当時はその考え方が浸透していなくて、色数の少ない住空間が多かった。その中で、アムスタイルのキッチンは、シンプルながらも塗装やステンレスの研磨の技術が高く、質感が良いことが評価され、多くの住宅に導入されていきました。
現在は、ピアノ塗装やアルミニウム材、味わいのある木の突き板など多様な材を用いていますが、決まった組み合わせはなく、基本的にお客さんの求める素材や色を表現しながら、アムスタイルの独自の寸法に落とし込んでいきます。時代の変化とともに、新しい素材が登場すると取り入れていきますが、形状や基本的な寸法は変えていません。そこにアムスタイルらしさが宿っているとも言える。メートル単位の大きい話ではなく、本当に細かな部分です。例えば、引き出しや扉の手掛け。アムスタイルでは工場に常備されている30度や45度の刃物の型を使用して製造することはありません。
手掛け以外にもこの”工場寸法”によって、家具の寸法が決められてしまっているケースをよく見かけます。しかし、それは使う人の目線に立ったものづくりではない。アムスタイルの手掛けは、触れた時にどことなく柔らかさを感じるように、機械の決まった角度ではなく、「手が触れる部分に○○㎜必要か」を考えた上で、そこから導き出される適切な角度で加工しています。インテリアの詳しい知識がなくても、人の手は敏感なので、そこに触れた瞬間に感じるものがある。素材の規格や道具による寸法に縛られることなく、美しく、使いやすいディテールを追い求めている点が、アムスタイルの品質の原点になっている。だから他で真似をしようとしても、本質的にアムスタイルと同じキッチンにはなりません。
—ユーザーとのやり取りで意識していることはありますか。
製品のクオリティーだけでなく、ショールームでのプレゼンテーションにもこだわりがあります。陳列する製品はできるだけ少なくして、サンプルからお客さんが選ぶのではなく、お客さんと私達がコミュニケーションをとって、その方の理想とするキッチンを導き出していくような接客を心がけています。
東京・代官山に現在のショールームを構える以前は、ガレージのような空間で展示をしていました。当時はお客さんが予約もなくふらっと立ち寄って、キッチンの話をしているうちに盛り上がり、「清水さん、これくらいの予算でキッチンづくりをお任せします」といって帰っていくようなことも多かった。それは、当時、つくっている製品バリエーションが少ないということもあったけれど、アムスタイルのキッチンのコンセプトが明快だったからというのも理由だと思う。ブレずにものづくりを続けていけば、受け入れてくれる人がいるというのを実感しましたね。その姿勢は今も一貫しています。
—キッチンづくりに対するユーザー側の変化として感じていることはありますか。
キッチンまわりにファッションと同じようなコーディネートの意識が芽生えていると感じます。差し色となるようなバッグや靴を身につけるように、キッチンの装いに変化をもたらすような要素が求められている。そのニーズに対して、キッチンをもっと置き家具のような存在にしたいという思いがあります。アムスタイルのショールームでは、アイランド型のキッチンを展示する一方で、壁側を一般的なシステムキッチンのような構成ではなく、冷蔵庫やカウンター、チェスト的な収納などそれぞれの用途や機能を持たせた家具として展示しています。
—キッチンまわりに複数の素材が取り込まれて、単調でない表情が印象的です。
キッチンの家具には、木材や石材、金属といった複数の素材をミックスしています。システムキッチンのようなかたまりで考えずに、一つひとつの機能を選んで、置いていくような感覚でキッチン空間を構成してもらいたい。キッチンスペースに5mの幅があったとして、5mのキッチンをつくろうとすると、ただ割り付けていくような感覚になり、オーナーの思いがこもった豊かな空間はつくれないと思います。1.5mの水場、2.5mの収納など、その家庭に必要な機能を落とし込んでいく考え方が、その人らしいキッチンづくりにつながる。
その場合は、従来の高さや寸法にこだわらないことも重要です。例えばダイニングと対面型のキッチンでは、あえて天板の位置を高くすることで、作業中にも目線が前を向きやすくなり、コミュニケーションが生まれやすくなる仕掛けを施すケースがあります。また、鍋は下に置くという考え方を変え、一番上の引き出しに鍋入れを設けることで使いやすくなるだけでなく、家事という作業が少し楽しくなるかもしれない。
—素材の使い方で大事にしていることはどのようなことでしょうか。
キッチンの印象は、キッチン製品だけでなく、壁や照明、窓といったその他の要素が形づくっている部分が大きい。そこに立つお客さん自身がどんな人か、持っている家具、内装といったものに自在に合わせて、オートクチュールでキッチンを提案していくことを大事にしています。例えば、ただの収納スペースとしての引き出しの中の材質やデザインにもこだわります。カトラリーや調理用器具を並べた時の美しさを意識した間仕切りや、あえてキッチンの外側の素材とは異なる木材を用いるなど、使う人の愛着が湧いて、大切に使い続けたいと思えるつくりです。さらに最近は水栓を始めとする設備機器の素材、色合いのセレクトも重要なポイントになっています。
—これからのキッチン空間に向けてアムスタイルが目指すことを教えてください。
いくらカッコ良さを打ち出しても、キッチンは売れるものではありません。基本的にキッチンは労働を助け、清潔を保つためのものです。そのベースの上に、美しさやスタイリッシュといったデザインの考え方が求められる。キッチンを使う人の求める機能を満たしながら、誰かに見てもらいたくなるような「自分らしいキッチン」を、私達が引き出して、形にしていきたい。キッチンをファッションのようにコーディネートする感覚に、アムスタイルのキッチンが寄り添うことができればうれしいですね。
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