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中原典人氏(UDS)に聞く
2020年以降の
ホテルデザインを探る2019.05.06 | REPORT
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照明メーカーのDNライティングが主催したセミナー「2020年以降のホテルデザインを探る」が、2019年2月、「3×3 Lab Future」(東京・大手町)で開催された。これまで数々のホテルの設計を手掛けてきた中原典人氏(UDS)をゲストに迎え、月刊『商店建築』副編集長の車田創がモデレーターを務めた同セミナーには、約100名の来場者が詰めかけた。来年に迫った東京オリンピック・パラリンピック以後のホテルビジネスの動向に対する関心の高さが伺えた。
これまでの経験が紡ぎ出す
ホテル設計のメソッドセミナーでは、まず中原氏の手掛ける三つの最新事例についてプレゼンテーションが展開された。最初に紹介したのが、沖縄・宮古島のホテル「the rescape(ザ・リスケープ)」。2019年5月に開業予定で、プール付き客室が集まるヴィラ棟と、ラウンジやレストラン、カフェ&バーを持つ管理棟、プールテラスで構成しており、海と山に囲まれた大自然の中の隠れ家風リゾートである。
続いて、同じく5月に東京・新宿で開業予定の「ONSEN RYOKAN YUEN SHINJUKU」。旅館とビジネスホテルの良さを組み合わせた、これまでにない形態で、東京を訪れる多くのインバウンドにも照準を当てている。
最後に紹介したのが、18年6月に開業した「MUJI HOTEL BEIJING」。天安門広場の目の前という絶好のロケーションを生かしながら、世界中で人気のある無印良品の世界観を打ち出したホテルである。
三つのホテルの構想、コンセプト、基本プランを一通り解説した後、スクリーンに映し出された個々の平面プランに、モデレーターが質問を投げ掛けていった。中原氏は、そのプランに至った経緯について、エピソードを交えながら回答。「シンメトリー構成がラグジュアリーホテルの定石」「ネットエージェントにも検索されやすいプランを用意」といったホテル設計のメソッドが語られる度、多くの来場者が真剣にメモを取る姿が印象的だった。
宿泊機能と共に求められる
「地域性」や「体験」話題は、セミナーのタイトルに掲げられた「2020年以降のホテルデザインを探る」へと移る。来年以降も数多くのホテルの計画に携わる中原氏は、今後の見通しをどのように立てているのだろうか。「今後2、3年は、ホテルラッシュが続く」という予測を立てた上で、次のように続けた。
「最近開業したホテルには、宿泊施設としての枠を越えようとするケースが多いように思います。ブランドやインテリアを変えてみたりと、個性を打ち出したホテルがいくつも開業している。利用者は今後、宿泊特化型のホテルを古いものと見なすようになり、コンセプトを持つ新しいホテルに流れていくのではないでしょうか」
古いと見なされたホテルは、稼働率が下がる。投資したとしても価値が下がったままであれば、負債が膨れ上がってしまい、廃業に追い込まれるホテルが出てくる可能性も示唆する。
「一時期、似たようなホテルがいっぱい出来てしまったため、余計にそう感じるのかもしれません。今後は、ハードの充実だけでは稼働率が上がらないので、ソフトを絡ませることが求められるでしょう」
ここで言うソフトとは、「地域性」や「体験」を指す。「いかに地元に愛されるホテルになるかが、とても大事になる」と中原氏は語る。
「プレゼンテーションで紹介した『the rescape』では、沖縄のアーティストとコラボレーションしました。共用部や客室を通して、彼らの作品を多数展示しています」
「ホテル アンテルーム 京都」(11年10月号)を始め、これまで多くの地元のアーティストと協働してきた中原氏は、「彼らが地域に独自のネットワークを持っていることが背景にある」と語る。
「アーティストに『このホテルは良い場所だ』と感じてもらえれば、その印象は彼らの仲間へも浸透していくことでしょう。長い目で見れば、ただ稼働率を高める口コミよりも、地元に愛してもらえる評判をつくるの方が、ホテル運営者としてのメリットは大きいのです」
淘汰されていくことを念頭に
独自のコンセプトを打ち立てる続いて、「コンセプトを求めてリニューアルするホテルは、今後増えていくと思うか」というモデレーターの質問に対して、中原氏は次のように答えた。
「既にリニューアル自体は増えつつあります。ただ、景気が悪くなってしまうとできなくなってしまうので、まさに今がそのタイミング。もしオリンピック後に景気が悪くなれば、投資家が本業で収益を上げられなくなる影響を受けて、ホテルへの投資を凍結する可能性が高い。その後は、ますます悪循環に陥ってしまうでしょう。
これからは、日本だけでなく、海外も視野に入れて投資バランスを考えていくべき。もし今、ホテルをつくろうとするのであれば、淘汰されていくことを念頭に、独自のコンセプトを具現化するコンテンツが求められるでしょう」
中原氏が所属するUDSでは、設計だけでなく企画及び運営を一緒に手掛けるケースが多い。ハードも大切だが、同時進行でソフトも構築していくという。
「静岡県のホテルならば、チェックインカウンターに10種類のお茶を用意して選んでもらうといった、地域性にひも付けたサービスを提供しても面白いのではないでしょうか」
セミナーの最後では、ライティングの話題が挙がった。「MUJI HOTEL BEIJING」では、武石正宣氏(ICE都市環境照明研究所)に依頼。企画、設計チームと共に北京の街中を歩き、フィールドワークからコンセプトを考察していったエピソードが語られた。
「再開発エリアではありますが、昔ながらの細い路地が入り組んだ街並みを残した胡同の光の落ち方がヒントになり、面発光の照明演出につながりました」
セミナー終了後は、鬼丸食堂による「東京産の食材を使ったホテルの朝食」と題した料理が来場者に振る舞われた。まるで中原氏がセミナーで語った地域性やコンテンツといったキーワードが盛り込まれたような料理に、来場者は写真を撮りながら舌鼓を打ち、大盛況のうちにセミナーは幕を閉じた。
ホテルで広がる
DNライティングの
ライティング・プロダクト22 PIECES
施主・プロデュース:ティーエーティー 田畑伸幸
設計:宗本晋作建築設計事務所 宗本 晋作 堀 賢太
クリエイティブディレクション・内装設計:HIGHSPOT DESIGN 加藤 直史 廣瀬 悠
照明計画:L・GROW 榎並 宏
撮影:繁田 諭
DNライティング
- TEL. 03-3492-4323
- URL. http://www.dnlighting.co.jp/