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「GREEN is」発刊記念 表参道グリーンツアー レポート
2019.05.28 | REPORT
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ショップ、ホテル、オフィスなど、植物と共にある空間デザインを集めた商店建築増刊『GREEN is』。その発刊を記念して、4月9日、表参道のグリーンスポットを巡るツアーが企画されました。ゲストは、建築家のアストリッド・クラインさん(クライン ダイサム アーキテクツ、以下KDa)と、空間とグリーンが一体となったデザインを手掛けるparkERs(パーカーズ)のクリエイティブディレクター・城本栄治さんとプランツコーディネーター・児玉絵実さん。現在協働で進めているプロジェクトがあるというKDa とparkERs。各々のプロフェッショナルな視点が交わる充実のツアーとなりました。インテリアやグリーンのデザイナーなど、5名の読者と共に、緑あふれる表参道を散策したその様子をレポートします。
グリーンが人を集める広場
初めに、南青山一丁目にある「SHARE GREEN MINAMI AOYAMA(シェアグリーンミナミアオヤマ)」に集合しました。都心にあるとは思えない広々とした芝生広場をオフィス、カフェ、グリーンショップが囲む複合施設です。
「オープン以来、予想以上に多くのお客様にお越しいただき、大きな反響を呼んでいます。広場を共用部として利用できる46区画のオフィスは募集してすぐに満室になり、グリーンのある環境で働きたいというニーズを感じます。オフィスの内装は利用者が自由につくり込めるので、グリーンのあるオフィスづくりをされるテナントも多いです」と、設計と運営に携わるリアルゲイトの菅原大輔さんは語ります。
ランドスケープデザインはヤシやサボテン、オリーブなどさまざまな植物の間に、キャベツやバナナなど、野菜や果物がひょっこり顔を出す、驚きのあるミックススタイル。都市生活者に自然を感じ、植物への興味を持ってもらいたいという思いが感じられます。参加者は知っている植物を発見しては、楽しんでいる様子でした。
100年かけて育った永遠の森
続いて、明治天皇と皇后の昭憲皇太后をお祀りする明治神宮に参拝しました。鳥居を覆うように大きく成長したカシ、シイ、クスノキなどの常緑広葉樹が参拝者を出迎えます。昔からある天然林のようですが、実は明治神宮の森は荒地につくられたもの。
「都心の貴重な緑である『神宮の森』は、約100年前につくられた人工の森でありながら、人間の手を加えずに維持できるよう計画されました。壮大な実験の結晶です」と児玉さんは説明します。剪定や施肥をせずに、針葉樹から常緑広葉樹へと林相の更新がされ、100年後に永遠に続く自然の森となるように構想されているのです。
そのための管理も徹底しています。「落ち葉の一葉足りとも外に出さず、掃き集めて森に戻しています。倒木もそのまま自然淘汰に任せています。こうしてできた豊かな森に今では猛禽類のオオタカも住み着いています」と明治神宮広報調査課の平尾旨鏡さん。
自然豊かな場所で育ったアストリッドさんは、子どもにも自然を身近に感じてもらいたいと考え、明治神宮の近くに引っ越した程。「大きな木の側にいると落ち着く。デザインとして見ると、枝の形や葉の色はみんな違い、それぞれに理由があることに感動します」と話しました。
今年10月26日には敷地内に隈研吾氏が設計した「明治神宮ミュージアム」もオープンします。2020年に100周年を迎える明治神宮に改めて注目が集まりそうです。
バイオフィリックデザインを取り入れたカフェ
続いて、4月にオープンした「スターバックス コーヒー 表参道ヒルズ店」を見学しました。同店は、parkERsとコラボレーションし、自然を感じるバイオフィリックデザインを取り入れています。地下にある店内へと降りる階段脇には、水が湧き出る水盤とブランドアイコンであるサイレンのロゴサイン。心地良い水音とタマシダやフッキソウなどの明治神宮に自生する植物がゲストを迎えます。エントランスを彩るグレープアイビーのハンギングをくぐると、店内には、植物や自然を感じるデザインが適切なポイントに設けられています。ガラス越しにグリーンを眺められる受け渡しカウンターでは、一輪挿しに飾られた季節の花々を週替わりで楽しむことができます。その横には、天気と連動した水の波紋を映し出す照明。地下空間でも自然を感じられるように、その日の天候に連動して、水滴の量が変化します。また壁面には、明治神宮の森の奥行きが表現されています。壁面のグラフィックアートは明治神宮の2本の御神木「夫婦楠(めおとぐす)」をイメージしたもの。その手前に配された本物の木々は、一の鳥居、二の鳥居をくぐり、「夫婦楠」までつらなる明治神宮の参道に並ぶ木々を表しているのです。
グリーンデザインについて、城本さんは次のように説明します。「サイン、エントランス、カウンターなど、グリーンと人の接点を意識し、植物がアイキャッチとなるようデザインしました。また、季節の花をカウンターの一輪挿しに飾るなど、デザインで植物や自然に興味を持ってもらうきっかけをつくりたいと考えました。植栽は明治神宮の参道にあることから、つながりを持たせ、通常は室内には使わない在来種も取り入れています」
バイオフィリックデザインを取り入れた理由について、スターバックス コーヒー ジャパン店舗開発本部の高島真由さんは「表参道のケヤキ並木沿いにあるので、緑を取り入れたデザインにしたいと、parkERsとコラボレーションすることを考えました。当社も生態系に配慮した、環境にやさしいサスティナブルなコーヒーづくりをサポートしています。そうした取り組みを伝えるのにも相性が良いと思いました」と語る。
「建築はコンクリートや金属、ガラスなどで構成されるので、どうしても硬質さがある。けれど、植物はそれを崩し、空間をやわらかくすることができる。人と空間のバランスを取ってくれる存在なのでしょう」とアストリッドさん。
経年変化した姿が魅力のグリーンウォール
その後、「南青山サンタキアラ教会」「ニコライ・バーグマン フラッグシップストア」など、グリーンが目を引く建物やショップに立ち寄りながら、「CoSTUME NATIONAL Aoyama Complex(コスチュームナショナル アオヤマ コンプレックス)」に移動。
ここには、植物アーティストのパトリック・ブラン氏が設計し、parkERsが施工した壁面緑化を眺められるバー「WALL」があります。竣工から8年が経って、植物は大きく成長し、壁から飛び出すような立体感と迫力が生まれています。一方で、淘汰される植物もあり、間近で見る植物の生命力に引き込まれます。
「光が差し込まない室内空間ですが、育成ライトと灌水、換気によって、植物は成長しています。フェルト式の壁面緑化基盤に植えた植物は根を伸ばすことができ、大きく育ちやすいのですが、大量の水と肥料を使います。保水性のある土を使い、より環境に配慮した壁面緑化システムも自社で開発しています」と児玉さん。
グリーンはデザインした時点で完成ではありません。その後の生育した姿を体験し、メンテナンス管理の実情を知る、興味が尽きない見学となりました。
心に作用するグリーン
最後に、parkERsを運営するパーク・コーポレーション本社と、1階にあるカフェ「Aoyama Flower Market TEA HOUSE(青山フラワーマーケット ティーハウス)」、少し離れたparkERsオフィスを見学しました。植物を取り入れるだけでなく、床にバークチップを敷いたり、水景や照明を効果的に組み合わせたりと、五感で感じる公園のような心地良さを取り入れた空間デザインが特徴です。更に、土壌の水分、室内の温湿度などをモニタリングしており、そのデータを生かした科学的なアプローチで、メンテナンスの手間と経費を削減するシステムを試験的に導入しています。今年はそのシステムを、あるプロジェクトで実装予定とのこと。グリーンを取り入れる際ネックになりやすいのがメンテナンスです。しかし、その手間やコストを軽減し、導入ハードルを下げる取り組みが進められているのです。
parkERsオフィスは、先進的なアイデアを形にする実験的な場でもあります。デスクからはシンボルツリーのガジュマルやエバーフレッシュが伸び、スチール製の湧き水の什器に響く水音が、気持ちをほぐしてくれます。ストレスが軽減されると言われる「緑視率」10〜15%の席を多く設け、科学的な根拠に基づいた植物の効果を最大化するデザインや配置がなされています。また、季節ごとの花を飾り、自然の変化に敏感になれるオフィスでは、豊かな感性を育むと共にコミュニケーションも活性化すると言います。
「水や光まで含めて植物のある環境をデザインすると、空間に動きが出て、ゆらぎが生まれる。それが緊張感を和らげるなど、心地良さにつながると考えています。店舗のデザインの場合、花や植物を取り入れることで、お客様に商品の『購入』だけではなく、『体験』を提供することで、再来店や売り上げ増につながります。そしてオフィスでは、ブランドイメージの向上だけでなく、人が自然に集まれる木の下の空間をつくったり、水音や波紋什器などを設けたりすることで、人の動線やコミュニケーションを円滑にします。更にリクルート効果を上げることも考えながら、植物や自然を感じる空間をデザインしています」と城本さん。
ツアーの参加者からは「体感して初めてグリーンを取り入れた空間の気持ち良さがわかった」「見た目だけでなく、心に作用するグリーンを感じた」との感想が寄せられました。
ツアーを終えて、グリーンの魅力を改めてアストリッドさんに聞きました。「植物は空間をやわらかくし、メンタルにも良い影響を与えるのに、重要性がまだまだ理解されていません。メンテナンスコストが掛かるからフェイク・グリーンにしたいとクライアントに言われることもある。プロジェクトの最後にフェイクになったら台無しです。空間にはイスとテーブル、そしてグリーンが必要です」
※「GREEN is」発刊記念 表参道グリーンツアーマップ
『商店建築』増刊「GREEN is」は、こちら ⇒
2019年4月8日発売
定価 ¥3,300
空間デザインにそこにしかない体験が求められる今、グリーンが今まで以上に取り入れられています。それは植物が、人のふるまいや心に、深層で作用するからではないでしょうか。この本には、商業空間を中心とした、植物と共にあるデザインを集めました。カフェ、レストラン、ショップ、ホテル、オフィスなど20件を、写真と共に、コンセプト、豊富な設計・植栽データを交えて紹介します。