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月刊「商店建築」9月号 発売記念トークイベント「人が集まる “本のある空間”のつくり方」開催

2017.10.10 | REPORT

トークイベント「人が集まる “本のある空間”のつくり方」開催
内沼晋太郎さん (numabooks)、田中裕之さん (田中裕之建築設計事務所)が登壇

9月25日(月)、東京・渋谷の「青山ブックセンター」にて、トークイベント「人が集まる “本のある空間”のつくり方」が開催された。同イベントは「商店建築9月号」の特別企画「ブックスペース-書店&本のある空間-」と連動したもの。ゲストとして登壇したのは、今までになかったような新しい「本のある空間」を仕掛けるブック・コーディネーター内沼晋太郎氏と、建築家の田中裕之氏。商店建築編集長の塩田健一が聞き手となり、二人が手掛けた下北沢の「本屋B&B」や青森の「八戸ブックセンター」などの事例を見ながら、そのコンセプトやプロセスが語られた。



左、内沼晋太郎氏 (numabooks)。右、田中裕之氏(田中裕之建築設計事務所)
左、内沼晋太郎氏 (numabooks)。右、田中裕之氏(田中裕之建築設計事務所)


両者が仕事をするきっかけは、内沼氏の自宅の本棚を田中氏が設計した事。田中氏は、「本だけでなく、音楽やお酒が好きな内沼さんのパーソナリティーを取り込んだ本棚を考えました」と話す。内沼氏からのオーダーは、様々なサイズの本が一緒に並べられる棚の高さと、文庫本が前後2列に並ばない程度の奥行き。「本をサイズやジャンルではなく、内容の文脈に沿って並べたかった。奥行きに関しては、『見えていない本は持っていないのと一緒』という考えのもと、すべての本が見える状態にしたかったのです」と内沼氏。本棚の仕切りとなる縦の板には薄い鉄板を使用し、板で本の並びが分断されないように工夫。また一部の棚板が延長された先には、レコード用のターンテーブルが置かれるなど、内沼氏の考え方や趣味が見えてくる本棚となっている。



はじめて2人が仕事で関わった、内沼氏の自宅の書棚
はじめて2人が仕事で関わった、内沼氏の自宅の書棚


この時の「本の文脈に沿って並べる」という手法は、下北沢にある「本屋B&B」でも実践された。本屋B&Bは内沼さんが運営する書店。本の陳列方法を始め、オペレーション内容など様々な点で、他の本屋ではあまり見られない手法が取り入れられている。什器や照明は1点物のビンテージ家具を用いて、ユーザーが購入することも可能。もし買われた場合は、別のビンテージ家具に入れ替えられる。そのため、店内は整然とグリッド上に棚が並ぶ従来の書店とは異なり、どこか温かみや有機的な雰囲気を感じる空間となっている。そして、本の並べ方もまたその空気を醸成する要素だ。例えば芸術や医学、旅行、文庫本といった大きな「ジャンル」でまとめて並べられがちな本が、本屋B&Bではそのジャンルやサイズを問わずに1つの本棚に並べられる。



下北沢にある「本屋B&B」
下北沢にある「本屋B&B」


「ここでも本の内容、文脈を考えながら、私を始めスタッフの視点で構成しています。本の探しやすさは求めていません。すでに探している本がある場合は、大型の書店で買う方が便利でしょう。一方で、本屋B&Bのような小さな書店は、置ける本の数が限られた中で、書店員がこだわって選んだ本をできるだけ多く見てもらうことが大事です。“探していなかったもの”への出合いや、“何かしら”を探している人にとっての発見がそこにはあります」(内沼氏)



もちろん、本の並びやセレクトは定期的に入れ替わっているが、ユーザーにはなかなか気づかれにくい。1点物の本棚が入れ替わってピッチや高さ、入る本の数が変わることは、商品の並びが固定化しがちな書店にとって、空間が生まれ変わるきっかけとなる。また、同店のもう一つの特徴が店内でビールを飲めること。ゆっくりとビールを飲みながら各本棚をめぐる行為は、新たな本との出合いを生むきっかけともなる。



他方、青森県八戸市にできた「八戸ブックセンター」でも、内沼氏と田中氏が協働して空間が作られていった。同店は八戸市が運営する施設で、市の活力を生むことを目的の一つとして計画された。街には民間の書店もある中で、市が書店をつくる意味や、果たすべき機能について、2年間に渡って、内沼氏がプロジェクトのディレクションを進めていったという。



八戸ブックセンター
八戸ブックセンター


「本を読む人を増やす、本を書く人を増やすなど、本に親しんでもらうことを一番のテーマに据えました。たくさんの本を売ることが目的ではなく、その代わりに民間の書店にはないようなラインナップとして、新たな本との出合いがある空間としています」と内沼氏。八戸ブックセンターの中には、書棚だけでなく様々なオリジナル家具や、一風変わった読書用のスペースが各所に設けられている。



「じっくり読むための1人用のイスや、1人で籠もって執筆活動をするためのスペース、読書会“のみ”が開催できるスペースなどが点在します。使い方を本にまつわる行為に限定することで、空間から本に興味を持つきっかけづくりが試みられているのです」と田中氏。行政が運営することで、経済的な効率性から少しだけ離れた新たな書店の姿が立ち上がっている。



八戸ブックセンター
八戸ブックセンター


最後にこれからの書店の在り方について聞くと、内沼氏からは次のような答えが返ってきた。「書店は商売としてはとてもバランスの難しいもので、こうすれば売れるというようなビジネスモデルもない。一方で、個店ごとに経営する人のやりたいことを表現していくことで、他にはないオリジナルの店づくりができていく可能性がある。本屋は四角い本と、四角い棚でできるので、空間としてつまらなくなりがちですが、本が持つ意味は画一的ではなく様々な方向に広がっています。本を通して何を伝え、感じてほしいかを考えながら店づくりをすることが、これからの街の書店には求められるのでは無いでしょうか」



今年12月に移転するという本屋B&Bを始め、人が本を中心に集い、新たな知識や出合いにつながっていく、本が本来持つ機能を具現化するかのような店づくり手法に今後も期待したい。






特別企画「ブックスペース-書店&本のある空間-」で、多彩な本のある空間を紹介した商店建築9月号は、こちら








商店建築2017年9月号

『商店建築』 2017年9月号

2017年08月28日発売
定価 ¥2,100
コンラッド 大阪
イセタン ザ ジャパン ストア クアラルンプール
業種特集1/オフィス
業種特集2/書店&本のある空間

内沼晋太郎(うちぬま・しんたろう)
1980年生まれ。numabooks代表。一橋大学商学部商学科卒。ブック・コーディネーターとして、本にまつわる数々のプロジェクトを手掛ける。2012年、東京・下北沢に「本屋B&B」を博報堂ケトルと協業でオープン。近年の主な仕事に、青森県八戸市の公共施設「八戸ブックセンター」ディレクターなど。長野県上田市のインターネット古書買取販売・株式会社バリューブックスの社外取締役もつとめる。主な著書に『本の逆襲』、共著に『本の未来を探す旅ソウル』(共に朝日出版社)。2017年より出版事業も開始、第一弾となる吉田昌平『新宿(コラージュ)』が発売中。
田中裕之(たなか・ひろゆき)
1976年大阪生まれ。2003年慶應義塾大学大学院修士課程修了後、渡仏。2003-05年CARBONDALE paris勤務。LOUISVUITTON パリ本店などを担当後独立。家具、プロダクトから住宅、店舗、オフィス、公共の施設まで幅広く活動中。2017年9月の1ヶ月間ISSEY MIYAKE MEN、2017AWのウィンドウデザイン(青山、神戸大丸、京都伊勢丹他)を担当。主な作品に「トゥルースピリット東京本社」(2014)、「BUKATSUDO」(2015)、「八戸ブックセンター」(2016)他。

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