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「Commercial Space Lighting vol.2」発売記念トークイベント 「ライティングデザイン・セミナー」開催
2017.06.20 | REPORT
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6月8日(木)、東京・二子玉川 蔦屋家電にて、ライティングデザインに関するトークイベントが開催された。
同セミナーは、商店建築増刊「Commercial Space Lighting vol.2」の発売を記念したもので、ライティング・プロダクトの制作を手掛ける永冨裕幸さん(NEW LIGHT POTTERY)と、飛松弘隆さん(飛松陶器)が登場。ライティングデザイナーである永冨さんと、クラフト作家の飛松さんが、それぞれの立ち位置から見た照明器具のデザイン、制作のきっかけやこだわりについて、商店建築・副編集長の車田を聞き手として熱く語りあった。
まず、それぞれの現在の制作の拠点と、携わっている仕事の内容について語られる。
永冨さんは照明メーカーを経て、ライティングデザイナーとして独立。現在は奈良県でパートナーである奈良千寿さんとともに、NEW LIGHT POTTERYとしてスタジオ兼ショールームを構え、照明器具のデザインや照明計画を行っている。永冨さんが手がける照明器具は、金属やガラスなどを使い、工業的な技術を取り込んだものや工芸職人とのコラボレーションによって生まれた、シンプルな中に機能美や素材の味わいがにじみ出ている点が特徴だ。
一方、飛松さんは佐賀県の出身であるが、焼き物で有名な有田などとの強い繋がりがあるわけではなく、アーティストを目指して東京へ進学し、そこで陶芸と出会い作家としての経験を重ねてきた。現在は東京・清澄白河で古い一軒家を改装した工房を構えている。独立後は数年間、自身の作家としての研鑽を重視し、大きな作品発表などは行わずにさまざまな試行錯誤を繰り返したという。その中で、光を通す磁器用の粘土との出会いを経て、近年、展開している磁器製のランプシェードシリーズを着想するに至った。
飛松さんは、同シリーズを制作するようになったきっかけを次のように語る。「一時期、骨董市によく行っていました。骨董品の家具などを見ていると100年前は当たり前のように使われていた生活用品が、100年後の今も存在していることに感動します。そこにはそのモノを使っていた誰かが、大事にしたいと思った理由や意味がある。そんな中で、ある時、ミルクガラス製のランプシェードに出合いました」
このランプシェードは、主に大正時代から多く作られ、当時は日常的な風景の一部であったもの。その質感を見た時に飛松さんは得も言われぬ刺激を受けたという。「これは『光のための器なのだな』とその時思ったのです。食器のような形でありながら、光を受け止めるための機能を持っていて、独特の存在感がある。その後骨董市に行ってはミルクガラス製のランプシェードを探し続けました」(飛松さん)
飛松さんとそのランプシェードの出合いから数年が経った頃、メーカーが開発した「光が透ける粘土」との偶然のめぐり合わせから、ミルクガラスに惹かれていた自身の中の思いと結びつき、他にはないランプシェードの制作へとつながっていったという。
飛松さんは、2007年頃から光が透ける焼き物のランプシェード試作に取り組み始めた。メーカーの粘土をそのまま使ってみたものの、光は通すが思う通りに形が保てず、独自の配合や、厚み、焼き方などを工夫し、約50種のテストピースを作っていったという。3年ほどかけて素材作りのプロセスが形になってからは、今度はランプシェードの形を模索する日々が続くことに。石膏の型をつくり、鋳込みを繰り返していき、柔らかい光の透け感が魅力の「fin」や、石膏の型によってできるバリをあえて残した「odd line」といった作品が生まれていった。
さて、他方、永富さんの照明器具を制作するプロセスを聞くと、飛松さんの作品と同じくシンプルな中に個性を感じさせながらも、「製品」としてのアプローチはまったく別方向ともいえるものだった。
「私はあくまでライティングデザイナーとして、自分が空間にほしい“光”が無い時に、器具をつくってきました。今は、各地の工芸職人などとコラボレーションして照明器具を制作していますが、そこには出来るだけ私自身の作家性のようなものが出ないようにしたいと思っています」(永富さん)
自身の制作した、仏壇づくりの「丁番」の技術を取り込んだ照明器具を見ながらそう語る永富さんに、飛松さんからでた質問が、よりそのコンセプトを浮き彫りにする。
「この丁番は折りたたんだりして、使う人が自分で広げたりすることもできるのですか?」(飛松さん)
「いえ、この丁番は意匠というよりも折りたたむことで配送の時の省スペースによるコスト減を念頭に置いたものです」(永富さん)
あくまでも機能面を重視した、できるだけ「個性的な線がない」器具づくりを心がける永富さんに対して、飛松さんは、「自分の納得いく線ができるまで、延々とペンを走らせる」と語る。
「ランプシェードの鋳型である石膏型は使い続けていると、キズがついたり、磨耗してくる。始めの頃は削って直そうとしていたけれど、その原型第一主義みたいなものがなんだか違う気がしてきて。型も成長していると考えると、どんどん変わっていって良いと今では思っています」と飛松さん。
一方で永富さんは、シェードだけでなく、ソケットやコードなども自分で器具の設計図を描いていくなかで、それを製造する職人に完璧に同じものを求めると同時に、「自分の想像を超えたもの」を期待する瞬間があるという。NEW LIGHT POTTERYで制作する、磁器に「金つぎ」の施されたランプシェードは、一度、同規格で仕上がった磁器を、パートナーの奈良さんが割り、再度、金でつないで形にしていく。「本来、金つぎは、割れた器を治して使い続けるための手法ですが、その仕上がった姿は、機能や目的を超えた美しさを持っていると感じたのです」(永富さん)
飛松さんいわく、これらのエピソードは、「ゆがみ」について飛松さんと永富さんが別々のアプローチで考えていることの表れだという。
「陶芸は正円を作るのがとても大変なことで、私はそれがまだまだできない。しかし、正円をつくろうとする過程で生まれるズレや、ゆがみを見てある種、ほっとする時があるのです。作品が流動的に変化していくことの面白さを許容していく中で、新しいものも生まれるのかも」(飛松さん)
その後も、それぞれの作品を手に取りながら、一つ一つの制作プロセスやコンセプトがやり取りされた。
最後に今後の目標を聞かれると、永富さんは、「ライティングデザイナーが使ってくれる照明器具をつくりたい」と、光を扱うデザイナーとしての変わらぬ軸を見せ、飛松さんは、「自分が見たいものを作っていますが、その照明器具が50年後、100年後の骨董市で並んでいることが夢です」と、オリジナリティーと独自の視点を追求するクラフト作家ならでは思いを言葉にした。
この日、同イベント会場には、メーカー社員やデザイナーなどが多く訪れたが、永富さん、飛松さんの思いに触れ、モノ作りには欠かせない、作り手の中にある根源的なテーマの在り方について見つめ直すきっかけとなったに違いない。
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WEB限定コンテンツ text:高柳圭
- 永冨裕幸(ながとみ・ひろゆき)
- 1979年大阪府生まれ。設計事務所に勤務後、2005年マックスレイに入社。2014年に退社し、2015年に妻の奈良千寿氏と共に株式会社ニューライトポタリーを設立。商業施設など空間の照明計画と共に、ライティング・プロダクトの制造・販売を手掛けている。プロダクトの素材は、ガラスや真鍮、白磁などさまざまで、町工場のネットワークを駆使して具現化する。
- 飛松弘隆(とびまつ・ひろたか)
- 1980年佐賀県生まれ。多摩美術大学工芸科陶プログラムを卒業後、在学中の型による立体造形の経験を活かし、鋳込み型の技法による器の制作に着手。陶芸家の小川待子氏の助手等を経て独立し、「飛松陶器 tobimatsu TOKI」の屋号で作品を発表する。磁器の光を通す性質に着目し、透光性を調整した磁土によるランプシェード制作に取り組んでいる。